白菜農家のゴールは、収穫して出荷することです。
当然ですが、収穫に行き着くまでには種まきから育苗、消毒、草取りなど、さまざまな作業が伴います。
本記事では、白菜農家の仕事をわかりやすくお伝えします。

経験しているからこそ伝えたい
情報が盛りだくさんです。
農業を始める人・農業に関心を持つ人なら読んでも損なしの記事となっています。
白菜の本場である茨城県古河市で栽培していた経験を元に、白菜農家のリアルをお伝えします。
- 白菜の種まきは自動でできる
- 育苗する時も消毒は欠かせない
- 雑草対策は早めが肝心
- 白菜を傷つけずに切るのは難しい
- 白菜の収穫は腰を痛めやすい
- 暖冬だと売れ行きが落ちる
- 白菜農家を見るなら茨城に行くのがおすすめ


ライター:相馬はじめ
- 農業法人に8年間勤務
- ポジション:現場リーダー
- 担当作物:キャベツ・白菜・じゃがいも・米・麦・そば
白菜農家の仕事|種まきから出荷までの流れ
白菜農家の主な仕事は、以下のとおりです。
白菜の種まき|自動播種機でラクラク作業
農家の規模にもよりますが、白菜の種まきは自動播種機を使います。
自動播種機は、育苗ポットへの土入れから水やり(灌水)、種まき、ケイ酸カルシウム肥料(イネニカ)の散布まで、すべて自動で行うことが可能です。
育苗ポットや白菜の種、培土、肥料の補充には人手が必要ですが、作業する人は基本的に流れているのを見守るだけでOK。
一方、種をまき終えた育苗ポットを積み上げる作業は腰をかがめて持ち上げるため、体力の要る仕事となります。



唯一の重労働になります。
種まきに必要な人数は4人
種まきは、以下の4人体制で行います。
- 育苗ポットを入れる人
- 培土を補充する人
- 種の補充とチェックする人
- 育苗ポットを積み上げる人
ちなみに同じ場所をずっと担当すると、飽きて眠くなります。なので定期的に持ち場をチェンジして、気分をリフレッシュしながら作業するのがおすすめです。
また、自動播種機を使わない場合は、穴に種を入れて育苗ポットに落とすアイテムを使います。



栽培規模によっては
このアイテムでも十分間に合います。
ハウスで育苗|病害虫から守る農薬散布
白菜の種まきを終えたら、ビニールハウスに育苗ポットを並べます。
並べ方は、育苗ポットを4〜5枚抱えてハウスの奥から一枚ずつ置いていきます。





この作業は人数が正義です。
人手が足りないと腰を痛めます。
育苗ポットを並べるときは、出勤しているスタッフを招集します。みんなで作業するのがいちばん効率的かつ疲労が少なくすむからです。
農薬を散布するタイミング
ハウスに並べた白菜は、芽が出るまで基本は放置です。水やりは欠かせません。
芽は一週間もしないうちに出てきます。そして白菜の苗を育てる時期(8月〜9月)は、虫や病気が発生しやすいタイミングです。
そのため、苗のうちから定期的に以下の農薬を用いて消毒します。
- アファーム乳剤(殺虫剤)
- トルネードエースDF(殺虫剤)
- フォリオゴールドフロアブル(殺菌剤)
生育の様子をみながら適宜使用します。



ハウスの中で育苗していても、
病害虫は発生します。
育苗中に苗がやられてしまうと、種まきにかけたコストがすべて台無しになってしまうので、消毒しながら苗の生育を守ります。
農薬の散布は、消毒専用の動噴を背負って行います。
白菜の定植|移植機で負担減。苗の根張りによっては苦労する
白菜の定植は、苗を自動で植えられる移植機を使います。


作業者は苗を補充しながら操縦するだけと、作業負荷は低いです。
ただ白菜の苗は、種まきしてから4〜5週間あたりを目安に定植するのですが、根張りが弱いこともしばしばあります。



根張りが弱いと機械では
うまく植えられません。
移植機は育苗ポットから苗を1つずつつまんで植えます。このつまむ力は強く、根張りの弱い白菜の苗だとうまくつまめないため、植えられない事態になるのです。
そうなった場合は、断念して手で植えるほかありません。
白菜の定植は総じて、苗のコンディションに大きく左右されます。
移植機の種類
移植機は一緒に歩きながら操縦する歩行タイプが主流ですが、乗用タイプも普及してきています。


扱いやすさなら歩行タイプ。誰にでも使いやすく、男性・女性、外国人問わず使いこなせる親切設計です。
乗用タイプは座りながら作業できるのですが、苗の補充や深く植えすぎていないかなど、割と立ち上がるシーンが多くあります。



畑の面積によっても
利便性は異なります。
ちなみに移植機は歩行タイプでも一台100万円します。
白菜の追肥・培土|イヤホン必須の歩行作業
白菜の追肥・培土は、Bluetoothイヤホンが必須です。理由はずっと歩きっぱなしであり、一人でモクモクとやるタイプの作業だからです。
白菜は収穫するまでに1回は追肥と培土をします。
白菜の追肥作業
追肥とは、畝の間に肥料をまく作業のことです。肥料は散布器を背負って歩きながら散布します。


追肥は、2本の畝の間に肥料をまくだけです。文章ではピンとこないと思うので、次の画像を参考にしてみてください。


追肥する時に使う散布器は、1袋20kgある肥料がまるまる入ります。そして20kgの肥料を背負いながら、白菜の畝の間をひたすら行ったり来たりと、これがなかなかに重労働です。
肥料をまくことで徐々に軽くなりますが、作業後半になるにつれ体感は背負った時の重さがずっとつきまといます。



追肥の後は肩が真っ赤になります。
追肥の次は、培土機を使って土を上げていきます。
白菜の培土作業


培土作業は、機械を操縦しながら畝を往復するだけなので、農作業の中でもやさしい部類に入ります。
ただ追肥と同様にずっと歩きっぱなしになるので、集中力を保つためにもイヤホンをして作業するほうがいいでしょう。



エンジン音から耳を守る
耳栓としても活躍します。
農業は単純作業を繰り返すことが多いので、飽きずに取り組みやすい環境に自分をもっていくのが重要です。
白菜の草取り|霜が降りるまでが勝負
白菜栽培のカギを握るのが、除草作業です。特に秋冬白菜の定植時期はまだ残暑で暖かいこともあり、雑草も多く生えてきます。
除草が遅れると白菜の生育が遅れたり、肥料切れを起こしたりなどのトラブルが生じます。



早めの草取りが肝です。
雑草を放置した場合には、次のようなデメリットがあります。
- 消毒がかからなくなる
- 草の種が白菜の中に入る
- 収穫時に草が邪魔になり作業効率が落ちる
一方で、草との戦いも霜が降りるまでです。
霜が降りると雑草たちは寒さに耐えきれず茶色くなり、最終的には枯れます。
ですが、近年は温暖化していることもあり、霜が降りるタイミングが遅くなっているのも事実です。



草取りの長期化が
予想されるでしょう。
白菜の収穫|切り方・置き方・運び方
白菜を収穫する流れは、以下のとおりです。
白菜を切る
白菜を切るときは、外葉を1〜2枚ほど残して根本部分から切り落とします。


白菜を切る時の加減は生育具合によってもことなるので、ひと言で説明するのは難しいのが本音です。
早生の白菜であれば、多めに外葉を残すこともあります。晩生の白菜は身が詰まり大きくなりすぎることから、剥きながら切ることもあるのです。
そして白菜は切った後の置き方にも気をつける必要があります。
白菜の置き方


白菜を収穫する時期(11月〜2月)は北風・西風が強まります。
そのため、白菜の頭(頭頂部)は南か東に向けて置くのが鉄則になります。
白菜の頭を北・西に向けて置くと、風により白菜がめくれたり土ぼこりが入ったりするためです。



そして12月末〜2月になると
白菜は凍ります。
凍った白菜は、東から昇る太陽に当てて溶かします。
なので白菜は切ったら頭を、東か南に向ける。このことを理解しておくと作業の進行を妨げずにすみます。
「そんな手間ホントに必要?」と思われるかもしれませんが、このちょっとした手間が白菜のスムーズな収穫には重要なのです。
白菜を詰める
白菜の詰め方と入れる本数は、ダンボール・コンテナに詰めるかで異なります。
ダンボールの場合 | |
---|---|
詰める本数 | 4本 |
入れ方 | 頭を向かい合わせて詰める |


コンテナの場合 | |
---|---|
詰める本数 | 6本 |
入れ方 | 頭とお尻を互い違いにする |


白菜を詰める際は、虫や雑草の種が付着していないことを確認しながら、傷つけないよう丁寧に詰めます。



詰めた後の重量はダンボールで10キロ。
コンテナは15キロ以上になります。
詰めたダンボール・コンテナを運ぶ
収穫時の大仕事となるのが、白菜を詰めたダンボール・コンテナを運ぶ作業です。基本的には、畑に置かれたパレットへ積み上げます。
積み上げる高さはだいたい175cm前後。積み方は段を互い違いにします。


白菜がみっちり詰まったダンボール・コンテナは、1つ10k〜18kgにもおよびます。



力まかせに運ぼうものなら
すぐ腰を痛めます。
白菜を運ぶときは、腕だけでなく背中や足の筋肉も活用するのがポイントです。
重いものを運ぶときのコツはこちら>>農作業の腰痛を防ぐ方法!で詳しく解説しています。


ホイールローダーでトラックに積む
パレットに白菜たちを積み終えたら、ホイールローダーの出番です。
ホイールローダーとは、重機械版のフォークリフトです。


パレットにある下の穴にフォークを刺して、地面と接触しない程度に持ち上げます。そのままゆっくり走り、トラックまで運びます。



積み上げた白菜にはラップを巻いて
崩れないよう補強してます。
ちなみにホイールローダーの操作は、なかなかに神経を使う作業です。
走る場所は畑なので地面がデコボコしており、車体がとても揺れます。
急にハンドルを切ろうものならすぐに崩れることから。慎重かつ繊細な運転スキルが求められます。
トラックで集荷場まで運ぶ


白菜を積んだパレットをトラックに載せ終えたら、板とロープを使って固定し、集荷場まで運びます。
板はダンボール・コンテナの上に置き、ロープを使い南京結びで縛ります。
この時の縛りが弱いと集荷場へ向かう途中に崩すリスクが高まるので、全体重をかけて縛ります。



ゆるみがないことをチェックしたら
集荷場に出発。
トラックに白菜を載せながら走行している時は、無理に法定速度まで出す必要はありません。
道路で崩してしまうと警察沙汰にもなり、時間のロス・商品のロスが凄まじいので、安全運転第一を心がけます。
フォークリフトで白菜を下ろす
集荷場についたら、ロープをほどいて板を取ります。そしてフォークリフトを使って下ろします。この時も崩さないよう、気を抜かず慎重に行います。



集荷場の人が下ろしてくれるなら
任せるのもアリです。
ここまでが白菜収穫の一連の流れになります。
白菜収穫の補足
白菜の収穫は単調なように感じますが、収穫する畑の場所やコンディションによって作業の難易度は変わります。
道が極端にせまい畑やぬかるむ畑など、畑も千差万別なのです。
ちなみにキャベツやレタスの収穫も、白菜と同様なシーンが多くあります。
キャベツ農家の仕事も解説しているので、合わせてご覧になってみてください。


ここがキツイ!白菜農家の裏側
白菜農家がキツイと感じることは、以下のとおりです。
白菜は重くて腰を痛めやすい
白菜は葉物野菜の中でも重量がある作物です。
白菜の生育にもよりますが、1つ3〜4キロくらいになることもあります。
収穫期は白菜を毎日何百回と運ぶので、多くの人は腰を痛めます。



午前中は耐えられても
午後はしんどくなります。
2025年時点では最善策は、アシストスーツに頼ることかもしれません。
パワーアシストインターナショナルという会社では、農業用のアシストスーツを提供しています。


12月後半から鳥害に遭うリスク大
寒さが厳しくなる12月後半あたりから、白菜をついばむ鳥(ヒヨドリ)が登場します。


厳寒期となる12月〜2月は鳥のエサが激減するため、白菜が狙われます。
鳥害を受けた白菜は、頭頂部についばまれた跡が残り、さらにフンが付いてることもあります。
対策は白菜にネットをかけて物理的に防ぐ方法しか、今のところはありません。設置する手間を考えると、あまり現実的な方法ではないのが正直なところです。



鳥害は防ぐのが難しい事象の1つです。
越冬する白菜はヒモで縛る
年末から年明けに収穫する白菜は、頭頂部をヒモで縛ります。霜や強風からの傷みを防ぐためです。





ヒモを縛るタイミングは
11月中旬あたりです。
白菜縛りは地道ながらも、根気のいる仕事です。
白菜の残渣(ざんさ)が足元をすべらせてくる


収穫時の畑は、白菜の外葉や商品として出荷できないロスが足元に散乱しています。
これら作物の残渣(ざんさ)がある畑は、とても滑りやすいのです。
白菜の葉は水分が多くツルツルしているので、油断してると転びます。



軽トラックがスリップする
こともあるくらいです。
転倒防止のためにも、長靴の靴底は滑り止め加工されているタイプを選びましょう。
農作業におすすめの長靴については以下の記事で紹介しています。


元農家だから分かる白菜のあれこれ
元農家だからこそわかる白菜のあれこれは、以下のようなことです。
暖冬だと売れ行きが落ちる
白菜の売れ行きは気温に左右され、暖冬だと消費が鈍化します。



鍋のニーズが下がるからです。
もちろんこれだけがすべての要因というわけではありませんが、暖冬は白菜の売れ行きに関係します。
白菜を切るときにコツがいる
白菜を切る時、包丁の入れ方には少しコツがいります。
包丁は白菜の根元部分に入れて切り落とすのですが、この時お尻部分に傷をつけない注意しなければなりません。
そして白菜収穫の専用包丁は、以下の画像のように少し湾曲してます。


白菜専用の包丁は使い慣れると傷つけずかんたんに収穫できるのですが、コツを掴むまでは苦戦します。



包丁は一直線にまっすぐ下ろすのがコツです。
毎日鍋になりやすい
白菜の収穫シーズンになると、夕食が毎回鍋になります。
鍋料理の定番である、白菜と豚バラのミルフィーユやキムチチゲ鍋などさまざまな工夫を凝らしますが、最終的には水炊きに落ち着きます。



収穫時は食べるのに困らない。
農家の特権とも言えるでしょう。
白菜に黒い斑点があっても食べられる
白菜に次のような写真の黒い斑点を見たことはないでしょうか。


黒い斑点は虫や食べて害のある病気ではありません。「ゴマ症」と呼ばれる生理障害の1つです。
ゴマ症は気温の高低差や肥料過多などの要因により、白菜に起こる症状です。
加えて黒い斑点はポリフェノールであることから、カビでも病気でもありません。



安心して食べられます。
白菜農家によくある質問
白菜農家によくある質問は以下のとおりです。
白菜の病害虫におすすめの農薬は?
白菜の防除におすすめの農薬は、以下のとおりです。
- グレーシア乳剤
- アファーム乳剤
- バリダシン液剤5
グレーシア乳剤はヨトウムシ。アファーム乳剤はコナガから守るのに有効な農薬です。
バリダシン液剤5は、白菜に起こりやすい軟腐病を防除する農薬です。
もちろん使う農薬は、症状によっても異なります。
自分で症状の見極めが難しい場合は、現状をスマホのカメラで撮影し、農業資材屋さんやホームセンターのスタッフに見せて教えてもらいましょう。



農薬選びで失敗せずにすみます。
白菜が有名な産地はどこ?


白菜の主要産地は以下の都道府県です。
白菜の名産地 | 出荷量 |
---|---|
茨城県 | 199,400t |
長野県 | 49,300t |
埼玉県 | 17,400t |
群馬県 | 14,400t |
引用:e-stat「作物統計調査位:2023年秋冬はくさい」
国内に流通する白菜のシェアは上の県が大半を占めます。
白菜の本場を見るなら、茨城県古河市・結城市・八千代市を訪れてみることをおすすめします。



「あそこの大きい家は白菜御殿だよ」と
教えてくれます。
白菜は連作できる?
白菜の連作は避けるのが一般的です。
生育障害や病気を起こすリスクを高めるからです。
白菜を作った後はまったく異なる系統の野菜(長ネギやニンジン、カブなど)を作るのが推奨されます。
【まとめ】白菜農家の仕事
白菜農家の仕事は、収穫以外にも育苗や消毒、除草などさまざまな作業が伴います。
白菜の収穫や栽培を体験するなら、茨城・群馬・長野・埼玉で探してみるのがよいでしょう。



人手不足もあり、
農家はバイトを随時募集しています。
農業バイトを探すなら「デイワーク」など、農業の雇用に特化したサイトを利用するのも1つです。
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