食料安全保障を元農家がわかりやすく解説|日本の取り組みや国民にできることを紹介

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食料安全保障とは結局どんな内容?

ニュースで目にするけど概要すら知らない…

結論、食料安全保障とは、現在から未来にかけて食べるのに困らない生活を実現させるための、世界共通の持続目標です。

食料安全保障は日本のみの方針や政策ではなく、世界全体の課題となっており、最終的には私たち一人ひとりが向き合うべきテーマです。

一方で食料安全保障という言葉や字面により、多くの人から難しいイメージを持たれています。

そこで本記事では、食料安全保障を元農家がわかりやすく解説します。

はじめ

あなたの身の回りで実践できる食料安全保障の方法もお伝えします。

食料安全保障を理解すれば、日本や世界の動きが分かるのと同時に、あなたがすべきアクションも明確になります。

この記事のまとめ
  • 食料安全保障は未来まで続く食の安心を世界で守るための約束
  • 日本の食料自給率はわずか38%
  • 食べられるのに捨てられている日本の食品ロスは年間500万トン
  • 日本の食を支える国内農業は年々深刻化をたどっている
  • 紛争や災害で輸入が止まれば、日本はお金があっても食料が手に入らない
  • 国は「みどりの食料システム戦略」を掲げ、持続可能な農業への転換を急いでいる
  • 国産を選ぶや食べきるなど、日々の選択が未来の食卓を守る力になる
  • 食料安全保障は国民一人ひとりが向き合うべき課題
相馬はじめ吹き出し写真

ライター:相馬はじめ

  • 農業法人に8年間勤務
  • 現場リーダー、SNS運用担当
  • 得意な作物:キャベツ・白菜・じゃがいも・米・麦・そば
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食料安全保障とは?国内外の共通認識

食料安全保障とは、私たちが単に「お腹いっぱい食べられること」だけを意味するのではありません。

食料安全保障は一文でまとめると、「現在から未来にかけて食べるのに困らない生活を実現させるための世界共通の持続目標」なのですが、それには柱となる複数の考えがベースとなっています

食料安全保障を支える柱

FAO(国連食糧農業機関)が掲げる食料安全保障の4つの柱

日本を含め世界の共通認識の土台となる国連食糧農業機関(FAO)が掲げる食料安全保障では、以下4つの柱を軸にしています。

詳細
量は十分か
Availability
十分な量の食料が、国内生産や輸入によって供給されていること
簡単に手に入るか
Access
貧困などが理由で食料が買えないことがなく、誰もが食料を手に入れられること
健康的に食べられるか
Utilization
安全な水や衛生環境のもと、栄養のある食料を健康的に食べられること
安定させられるか
Stability
災害や紛争、価格高騰などがあっても、いつでも安定して食料を手に入れられること

さらに2020年にFAOの専門家グループは、「自分で選べるか(Agency)」と「食に困らないことは持続できるか(Sustainability)」という2つの新しい柱を加えました。これは、現代の人々が「何を食べるか、どう作るか」を自分で決められる自由や、環境を壊さず未来の世代も食料を確保できる仕組みの必要性が強調された柱になっています。
参考:国連食糧農業機関|食料安全保障の確保:機関と持続可能性が重要な理由

そして日本の食料安全保障のテーマも、FAOが定義する上記の柱にすべて当てはまります

つまり食料安全保障とは、食べ物の量や質、手に入れやすさ、安定性のすべてが確保され、それが環境や人々の尊厳にも配慮された、持続可能な状態を目指すという、非常に広くて深い概念となっているのです。

日本の食料安全保障が直面するリスク|抱える5つの課題

世界では、紛争やコロナ禍の影響で飢餓人口が7億人を超え、深刻な食料危機が続いています。その最中、一見豊かに見える日本も、実は食料安全保障において多くの課題を抱えています。

1:衰退をたどる食料自給率と日本農業

1:衰退をたどる食料自給率と日本農業

日本の最大の課題は、食料自給率の長期的な低下です。

以下の表は、国民が必要とする食料をどれだけ国内で生産できているかを示しており、現在この割合は、自給率がピーク時の半分以下にまで落ち込んでいます。

カロリーベース自給率生産額ベース自給率
196573%86%
202238%58%
出典:農林水産省 食料自給率に関する統計

そして食料自給率が低下している要因には、日本農業の衰退が大きく関係しています

日本農業の衰退の要因

日本農業の衰退の要因一覧
  • 農業従事者の高齢化
    平均年齢は69.2歳(2024年)と高齢化の一途をたどっている
  • 後継者不足
    農業を仕事にする人や担い手が減少している
  • 耕地面積の減少
    宅地化や耕作放棄地の増加により、農地は年々減り続けている
  • 不安定な所得
    収入が不安定なことから、農業をやる若者が増えにくい状態となっている

上記の背景には、日本は平時の経済効率を優先してしまったためでもあります。

2:輸入に依存する日本の食料事情

2:輸入に依存する日本の食料事情

食べ物の多くを輸入に頼る日本は、食料の供給ルートが不安定なリスクを抱えています

肥料や飼料を含む食料の多くは、船で運ばれてきます。ゆえに台湾有事(※)のような地政学的リスクが発生した場合、日本の主要な輸送ルートが使えなくなり、輸入がストップする恐れがあるのです。
※台湾有事とは、中国が台湾を力ずくで自分の一部にしようとすることで起こりうる、日本も巻き込まれる可能性のある軍事的な衝突(戦争など)のこと。

また、日本にある製粉工場や飼料工場などは太平洋側に集中しているため、南海トラフ地震のような大規模災害が起きると、食料の加工・供給に壊滅的な影響が及ぶ可能性があります。
参考:農林水産省|配合飼料メーカーの立地状況と飼料用米の集荷・流通体制

そのため「お金を出せばいつでも買える」という考えは、食べ物が物理的に届かなければ成り立たないのです。

3:気候変動や紛争などの脅威

気候変動や紛争などの脅威

気候変動による異常気象(洪水や干ばつなど)は、世界中で農業に壊滅的な被害をもたらしています。

またウクライナ侵攻のように、紛争は食料の生産や輸出を滞らせ、世界的な価格高騰を引き起こします。

そして他国が自国の食料を優先して輸出を制限する「食料の武器化」も大きなリスクです。

これらの地球規模の脅威は、もはや他人事ではなく、輸入に頼る日本の食卓を直撃する問題となっています。

4:日本の食品ロスは年間約500万トン

日本の食品ロスは年間約500万トン

世界では生産された食料の3分の1が、日本では年間約500万トンもの食料が、まだ食べられるのに捨てられています。

食品ロスは倫理的な問題であると同時に、食料安全保障上の大きな課題です。

限りある資源(水や土地、エネルギー)を使って生産された食料がムダになる一方で、世界には飢えに苦しむ人々がいます

これは食料が「量的」にはあっても、社会全体で「適切に利用」できていない証拠であり、各国の情勢などが大きく関わる部分でもあるのです

5:国民が持つ意識とのギャップ

国民が抱える意識とのギャップ

国民には、「日本の米は余っている」「いざとなれば輸入すればいい」といった誤解の意識を持つ方が一部存在します。

農林水産省の調査では、農業の担い手不足などを課題と認識している消費者は約8割いる一方、自らの食卓への影響に不安を感じる人は約2割にとどまっていることも明らかになっています
参考:農林中央金庫|「食料・農業・農村基本法」改正を前に「日本の農業の持続可能性に関する意識調査」を実施

これはスーパーに行けばいつでも食品が手に入る日常が、水面下で進む危機への感度を鈍らせています。

この「意識のギャップ」こそが、食料安全保障政策を進める上での大きな足かせとなっていることも事実です。

食料安全保障の取り組みと私たち国民ができること

日本の食の危機的な状況に対しては、国や企業、そして私たち一人ひとりが食料安全保障について理解し、意識をしていくことが大切です。それを改善すべく日本は、環境に配慮しながら食料の生産力を高める「みどりの食料システム戦略」を掲げています。

日本の食料安全保障の取り組み

日本の食料安全保障の取り組み

みどりの食料システム戦略の主な内容は、以下のとおりです。

みどりの食料システム戦略の内容
  • 生産面
    • 肥料や燃料を再生可能エネルギーなど環境に優しいものへ転換
    • AIやドローンなどのスマート技術を導入して作業を効率化
    • 2050年までに化学農薬の使用量を50%、化学肥料を30%削減し、有機農業の面積を25%に拡大
  • 加工・流通面
    • AIによる需要予測で食品ロスの削減
  • 消費面
    • 環境に配慮した消費を広げ、食育も推し進める

さらには過疎化している農山漁村の活性化や、データ連携などの技術基盤の整備、森林の適切な管理と木材利用によるCO2吸収など、みどりの食料システム戦略には多くの要件が盛り込まれています

そして国はみどりの食料システム戦略の取り組みを通じて、2050年までに農林水産業におけるCO2ゼロエミッション化の実現も目標にしています。

参考:農林水産省|みどりの食料システム戦略

国民が今日から実践できる食料安全保障

食料安全保障は、さまざまな広く深いテーマですが、決して難しい話ではありません

① 食品ロスを減らす

① 食品ロスを減らす

買い物前に冷蔵庫をチェックし、必要な分だけ買うようにしてみましょう。

スーパーでは賞味期限の近い商品から選ぶ「てまえどり」を心がけるのも1つです。

そして料理は食べきれる量を作り、外食で食べ残す場合は、持ち帰れないか相談するアクションも食品ロスの低減につながります。

② 国産の食材を選ぶ

「地産地消」を意識し、地元や国内でとれた旬の食材を積極的に選ぶようにしてみましょう。

スーパー以外にも、直売所や道の駅を利用するのもおすすめです。それが日本の農家を応援し、食料自給率の底上げになります。

③ 「もしも」に備える

③ 「もしも」に備える

災害時に備え、最低3日分(できれば1週間分)の水や食料を家庭で備蓄することも、身近で実践できる食料安全保障です。

ローリングストック法(普段の食事で使いながら買い足す)なら、期限切れすることなく、無理なく続けられます。

④ 日本の食と農業を知る・関わる

④ 日本の食と農業を知る・関わる

食に関するテーマや課題に関心を持ち、正しい情報を知ることも食料安全保障の実現をサポートします。

また市民農園や農業体験などを通じて、食料が作られる現場に触れることで、より解像度も高められるでしょう

食料安全保障とは国民一人ひとりが向き合うべき課題

日本の食べ物を取り巻く環境は、国内の構造的な課題から予測できない地球規模のリスクなどが絡み合い、非常に複雑で厳しい状況にあります。

そして食料安全保障は、もはや政府や農家だけの課題ではありません

私たちの食の選択が国内の農業を支え、環境を守り、未来の世代へと食をつなぐ力となります

今日からできる小さな一歩、例えばスーパーで産地表示を確かめることや、冷蔵庫の中身を使い切る工夫をすること。その積み重ねが、日本の食料安全保障という大きな課題を解決する、道筋でもあるのです。

日本から世界の食卓の未来は、私たち一人ひとりの手にかかっています。

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