種苗法改正とはどんな内容?
なぜ反対の声がある?
種苗法改正は2020年に提案され、2022年4月1日に完全施行された法律です。その当時、テレビや雑誌、新聞、SNSなどでも話題となり、社会的な関心を集めました。
種苗法の改正は種・苗を開発する育成者の権利を守り、日本農業の発展を促すことを目的としています。しかしその裏では、誤解や不安の声も上がっています。
本記事は、種苗法改正の概要や要点をわかりやすくお伝えします。
改正によって種や苗を自由に使えなくなるわけではありません。
誤解されている点やよくある質問についてもお答えするので、気になったところだけでも読んでみてください。
- 種苗法改正は育成者の権利保護を強化した制度
- 登録品種を無断で売る・持ち出すのは違法
- 反対の声は自家増殖の制限に対する不安
- 自家消費なら登録品種でも自由に増やしてOK
- 登録されていない品種は変わらず自由に使える
- 登録されている品種はそもそも少ない
- 品種を登録するにはコスト・手間がかかる
ライター:相馬はじめ
- 農業法人に8年間勤務
- ポジション:現場リーダー
- 担当作物:キャベツ・白菜・じゃがいも・米・麦・そば
種苗法改正とは?権利強化のための改正
種苗法改正とは、種や苗を開発した人(育成者)の権利を強化するために施行された法律です。
完全施行されたのは2022年4月1日。
この改正による大きな変更点は以下の3つです。
- 種・苗を開発する人の権利保護
- 自家増殖の制限
- 海外流出の抑制
改正前の種苗法は、海外への持ち出し制限に関するルールがなく、シャインマスカットの苗木が韓国や中国に流出し、現地で栽培・販売されてしまいました。育成者の権利をないがしろにする事態を防止する取り組みとして、種苗法は改正されたのです。
一方で、種苗法改正に反対する声も一部あります。これは、農家が負担するコストが増えるなどの懸念点が考えられているためです。
次に、種苗法改正の内容や役割などについて詳しくお伝えします。
種苗法改正で変更・強化された点
種苗法改正により変更された点は以下のとおりです。
1つずつ解説します。
登録品種の自家増殖の制限
登録された品種は、育成者の許可を取らずに増殖し、売ったり譲ったりすることはできません。
一方、登録されていない品種であれば特に制限はありません。
そして、登録されている品種は実際それほど多くないことも事実です。
仮に自分で種取りをして販売したいと考えているなら、こちら>>流通品種データーベースを利用して、登録の有無をまず確かめるとよいでしょう。
品種登録データ検索では、作物ごとの全体の登録数をチェックできます。
登録の費用変更
種苗法に該当する種・苗は、品種登録されていることが前提です。そして、品種登録には多くの費用がかかります。
実際の項目と費用は、以下にまとめています。
出願料 | 14,000円/品種 |
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審査手数料(栽培試験) | |
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一般的な植物 | 93,000円/回 |
きのこ | 424,000円/回 |
木本性の植物 | 279,000~465,000円/回 |
必須形質に特別調査形質を含む植物 | 105,000円~273,000円/回 |
審査手数料(現地調査) | 45,000円/回 |
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登録料 | |
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1~9年目 | 4,500円/年 |
10~30年目 | 30,000円/年 |
証明に関する請求手数料 | |
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品種登録出願の証明 | 1,500円/件 |
品種登録簿の謄本又は抄本の交付 | 350円/件 |
品種登録簿の閲覧又は謄写 | 220円/件 |
願書その他の品種登録に関する書類の閲覧又は謄写 | 1,100円/件 |
登録免許税 | |
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育成者権の移転登録 | 9,000円/件 |
合併による育成者権の移転登録 | 3,000円/件 |
相続による育成者権の移転登録 | 3,000円/件 |
育成者権の持分移転登録 | 9,000円/件 |
専用利用権の設定登録 | 9,000円/件 |
育成者権若しくは専用利用権を目的とする質権の設定登録 | 債権金額の1000分の4 |
表示の変更 | 1,000円/件 |
登録の抹消(放棄) | 1,000円/件 |
品種の登録は上記の細かな手続きや費用が必要になるのです。
たとえば、イチゴの新品種を登録した場合は、次のような流れと費用が想定されます。
- 品種登録の出願に1万4千円
- 栽培試験に14万3千円
(栽培試験の手数料9万3千円+ランナー調査にかかる手数料5万円をあわせた額) - 品種登録が認可された後の登録料
・1〜9年目:各年4,500円(合計4万500円)
・10〜25年目:各年3万円(合計45万円)
イチゴの登録にかかる費用を合計すると、トータル64万7,500円ものコストがかかります。(※あくまで概算です。)
多大なコストから、登録しない選択肢を取ることも十分考えられます。
輸出先指定の制限
品種登録された種・苗は、育成者が指定した国のみ輸出することができます。これまでは育成者の権利問わず、海外への持ち出しを制限する決まりはありませんでした。
輸出先を指定する場合は、農林水産省へ以下の内容を届け出す必要があります。
- UPOV条約加盟国かつ品種保護が適正に行われる指定国であること
(UPOV条約加盟国とは、植物の新品種の保護に関する国際条約を結んだ国) - 指定国以外への持ち出しを制限することも明記する
また、指定国以外への輸出を希望する場合は、育成者から許可をもらえば可能になります。これにより、育成者が意図しない流出を防げるようになりました。
日本ブランドの向上にも貢献する改正です。
登録品種の表示義務の強化
品種登録された種・苗を売ったり展示したりなどする際に関して、登録された品種であることが分かるように表示する義務が強化されました。具体的な内容は以下のとおりです。
- 「登録品種」の文字を載せる
- 「品種登録:番号」も明記する
- 「PVPマーク」を表示するリスト
表示することで登録の有無をひと目で区別できます。
海外持ち出しを制限する場合は、次のような表記も必要です。
- 海外持出禁止
- 海外持出禁止および〇〇県内のみ栽培可
参考:農林水産省:品種登録制度と育成者権パンフレット「4登録品種への表示義務」
表示義務の強化は育成者だけでなく、種・苗を購入する農家や家庭菜園する人などまでにとって、安心して手にすることができる改正です。
違反罰則の強化
種苗法の改正では、違反したときの罰則内容が強化されました。変更された内容は以下のとおりです。
- 懲役刑の導入:3年以下の懲役刑の追加
- 罰金額の引き上げ:上限が1億円(法人の場合)に引き上げ
- 海外持ち出し者への罰則:許可なく海外に持ち出した場合、上記の罰則が適用
罰則を見直すことで、育成者の権利を尊重し、保護する働きがより強まりました。
種苗法の役割について知る|育成者を守る
種苗法は、育成者の権利を守るための法律です。
新たな野菜や果物の品種を開発するには、おおよそ10年かかるといわれています。
シャインマスカットは33年もの月日を経て誕生しています。
育成者は、農家が栽培しやすく、消費者にもおいしく食べてもらえる農作物を届ける想いとともに、品種開発に取り組んでいます。それまでにかけた時間や費用を、他者にないがしろにされることほど悲しい事態はありません。
そうした事態を防ぎ、育成者の権利を尊重することが「種苗法」の役割なのです。
種苗法を支える2つの制度
種苗法を支える制度は以下の2つです。
どのような内容・役割なのかを解説します。
品種登録制度
品種登録制度とは、開発した新品種を農林水産省に出願・登録することで「育成者権」を取得できる制度です。
育成者権を取得すると、登録品種の種苗、収穫物、加工品などを独占的に利用することができます。 ただし、権利の消尽や、新品種の育成などの例外も認められています。
これにより、他者の無断使用・販売を防ぎ、使われる際は許諾料として報酬を受け取ることで開発コストが補えます。
一方で、新品種を開発し、登録してもその種や苗が使われるとは限りません。
育成者は農家や消費者が求める品種をつねに考えながら開発しています。
指定種苗制度
指定種苗制度とは、種や苗を購入する人(農家から一般の人)に安心して手にとってもらうことを目的とした制度です。
種子や苗の外観だけでは、品種や品質を見分けるのが難しいため、この制度によって表示が義務付けられました。
指定種苗制度により種苗を販売する際は、以下の表示項目を漏れなく正確に表記することが絶対となっています。
- 種苗業者の氏名および住所
- 種類および品種
- 生産地
- 採種年月および発芽率
- 数量
- 農薬の使用歴
参考:農林水産省「指定種苗制度:制度の概要パンフレット」
上記を明記することで、農家や家庭菜園を楽しむ人も、目的の種や苗を安心して買うことができます。
種苗法は育成者だけでなく、種・苗を購入する人の信頼を担保する役割も担っています。
種苗法改正のメリット・デメリット
メリット
種苗法のメリットは、品種を開発した育成者の権利を守り、購入する人も安心して買えることです。
それぞれの信頼を担保する働きを持っています。それにより、育成者は品種開発に専念でき、結果、農作物の生産性や品質が向上し、農業界全体の発展につながります。
栽培地域を指定することで、新品種を活用した地域の活性化を促す取り組みにも期待できます。
デメリット
デメリットは、品種登録にコストがかかることです。育成者権が守られる一方、相応のコストがかかることが否めません。
農家や種苗業者が品種登録された種・苗を使う場合には、許諾料が必要です。経営を圧迫する要因として懸念されるでしょう。
一方で、優れた品種を確実に手に入れられるという点は心強いでしょう。
種苗法改正にあげられた声
種苗法改正時、特に注目されたのが「自家増殖の制限」に対する声です。
以前の種苗法では、品種登録された種・苗であっても、自分たちで増やして、売ったり譲ったりすることができました。
改正後は、自家増殖するために育成者の権利を持つ人の許諾を得ることが必須となりました。これにより「種苗の入手や利用が困難になるのではないか」「農家の負担が増えるのではないか」などの不安な声が挙げられたのです。
一方、種苗法の改正への誤解があることも事実です。
品種登録された種・苗であっても、自家消費を目的とするのであれば自由に増やせます。
加えて、品種登録されていない種・苗は以前と同様、自由に売ったり譲ったりできます。
そして、世の中に流通している種・苗すべてが登録されているわけではありません。
品種登録されている種・苗は、実はそれほど多くないことが実態なのです。登録品種の割合は以下のようになっています。
- 米:17%
- みかん:3%
- りんご:5%
- ぶどう:13%
- ばれいしょ:10%
- 野菜:9%
参考:農林水産省「令和3年4月改正種苗法について〜法改正の概要と留意点〜」
種苗法改正は、単に育成者を保護するだけでなく、日本の貴重な品種を守り、ひいては農業の競争力強化、持続的な発展を促す狙いがあるのです。
【一問一答】種苗法改正によくある質問
種苗法改正で何が変わったのか?
登録品種の自家増殖や持ち出しに、育成者権を持つ人の許可が必要になりました。
メルカリで植物を販売したら違反になりますか?
登録品種の場合、権利者の許可なく販売すると違反となります。一般品種や固定種は販売OK。
種苗法の対象となる品種は?
農林水産省に品種登録された種・苗が対象となります。
自家増殖は禁止になりますか?
登録品種の自家増殖のみ、育成者の許可が必要になりました。販売や流通目的でない自家消費なら許可を取る必要はありません。
種苗法違反とは何ですか?
登録品種を権利者の許可なしに増殖、販売、輸出することなどが違反にあたります。
ジャガイモは種苗法の対象ですか?
登録品種のジャガイモは種苗法の対象です。
家庭菜園で自家採種は禁止されていますか?
登録外の品種や固定種は自由に採種できます。自家消費なら登録品種でも問題ありません。
種苗法で保護される品種は25年ですか?
通常は25年です。果樹や樹木は30年まで適用できます。
紅はるかの苗は種苗法で禁止されているのですか?
紅はるかは登録品種のため、無許可での販売や譲渡などは禁止です。
種苗法の対象外になるのは何ですか?
在来品種、固定種、品種登録されていない一般の品種は対象外です。
種苗法改正に賛成したのは何党ですか?
自民党、公明党が賛成し、立憲民主党、共産党などが反対しました。
種苗法改正のまとめ
種苗法改正は、日本の農業の競争力と持続的な発展を支える重要な施策です。改正の意図は、新品種開発を促進し、その価値を守ることにあります。
- 育成者権の強化
- 国内品種の海外流出防止
- 地域ブランド力の向上
育成者を守ることは日本農業の維持と発展にかかせません。栽培地域を指定できる種苗法により、地域ごとのブランド力を高めることにも貢献します。
種苗法改正は、日本の農業の未来を守るための重要な一歩と言えるでしょう。
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