- 国際女性農業年が定められた背景と、国際組織(国連・FAO)の役割
- 女性の活躍がもたらす「150兆円の経済効果」と「食料不安の解消」
- 現場で見えた、日本国内の女性農業者が抱える課題

国際女性農業従事者年?初めて耳にしたけど…



農業で女性の働き方はどのように変わるのだろう…
最近、スーパーの野菜売り場で「また値段が上がったな」と感じることはありませんか?
実は私たちが毎日食べている野菜やお米の価格は、農業の現場がいかに効率よく、安定して作物を育てられるかにかかっています。
しかし現在の日本の農業、そして世界の農業には、まだ十分に活かされていない大きな力があります。



それは現場を支える女性たちの力です。
そうした背景をもとに国連では、2026年を「国際女性農業従事者年」の年にすることを定めました。
国際女性農業従事者年は、単なる女性支援のキャンペーンではありません。
女性が農業の現場で目の当たりにする「古い価値観」や「環境のハードル」を取り除き、より活動しやすい土台を作っていくための取り組みです。
国際女性農業従事者年と聞くと、なんだか難しそうな印象を受けるかもしれません。でも、その中身はもっと身近なものです。
元農家のボクが、この活動が何を目指しているのか、そのポイントをどこよりも分かりやすくお伝えします。


ライター:相馬はじめ
- 元農家
- 農業法人に8年間勤務
- 役職:現場リーダー
- 作物:キャベツ・白菜・馬鈴薯・長ネギ・レタス・米・麦・そば
国際女性農業従事者年とは?:世界中で女性農業者を主役にする特別な1年


国際女性農業従事者年とは、一言でいうと「女性農業者たちにフォーカスし、彼女たちがもっと自由に効率よく働けるように、社会の仕組みをアップデートするための1年間にする」という取り組みです。
これまで農業の現場では、女性の労働は当たり前にあるものとして、その価値が正当に評価されない場面が多くありました。



現場や方針をまとめる際の最終的な判断は、男性であるシーンも多いですよね。
2026年は、その景色を世界規模で変えていこうという大きな節目にあります。
国連とFAOが主導する、世界規模の取り組み
国際女性農業従事者年を進めているのは、ニュースでも耳にする2つの大きな組織です。
- 国際連合総会
- FAO(国連食料農業機関)
国連総会:世界193カ国が集まる地球規模の話し合いの場


国際連合総会(通称、国連)は、世界中の国が集まって人類共通の課題を話し合う会議のこと。この場で、2026年は国際女性農業従事者年にすることが決められました。



国際女性農業従事者年は、世界193カ国の世界共通の宿題であるとも言えます。
つまり日本も含む世界中の国々が、この目標に向けて動くことを約束しました。
FAO(国連食糧農業機関):食の問題を解決する専門チーム


FAO(国連食糧農業機関)は、世界中から飢えをなくし、誰もが十分な食べ物を得られるように活動する国連の専門チームです。



今回の国際女性農業従事者年では、現場監督のような役割を担います。
世界中の女性農業者がどんなことに困っているのかデータを集め、それを解決するための技術やアドバイスを提供して、実際に社会が変わるようサポートします。
国際女性農業従事者年が目指すゴール:女性が働きやすいと幸福度も高まる


国際女性農業従事者年が目指すのは、単に女性に優しくすることだけではありません。以下のような根本を見直し、より女性が主体的に活動できる土台を築く目的がメインです。
- 道具や機械の改善
女性の体格や筋力でも扱いやすい農機具の普及 - ルールの見直し
女性が農地の所有権を持ったり、自分の名前で融資を受けたりしやすい環境作り - 技術の共有
最新のスマート農業技術などを、誰でも等しく学べる場の構築
こうした環境が整うことで、農業全体の生産性が上がり、結果として私たち消費者の手元にも、より質の高い農産物が安定して届くようになります。
なぜ今、女性農業者なのか?:3つの衝撃的な事実


なぜ今これほどまでに、女性農業者の活躍が求められているのでしょうか。
それは女性の力を引き出すことが、単なる思いやりではなく、私たちの家計や将来の食料供給を守るための「解決策」だからです。



それにまつわる3つの事実をもとに、理由を紐解いていきましょう。
世界中で150兆円もの経済効果が生まれる
農業の世界で、女性が男性と同じように土地を使ったり、最新の道具や資金を借りたり、技術を学んだりできるようになるだけで、世界の経済全体(GDP)が約1兆ドル、日本円にして約150兆円も押し上げられると言われています。
これは新しい農業サービスや、女性の体格に合った農機具の開発、地域での新しい特産品作りなど、新しいビジネスや雇用がどんどん生まれることを意味します。



女性が活動しやすい基盤を整備し、経済が活性化すれば、結果として私たちの暮らしも豊かになります。
4500万人の空腹を救い、食料価格を安定させる
女性の生産性が上がることで、世界中で食料不足に苦しむ人々を最大4500万人も減らすことができます。



これは遠い国の話だけではありません。
世界全体の食料生産量が増えれば、私たちがスーパーで目にする野菜やお米、輸入食材の価格も安定しやすくなります。
女性の知恵と力は、食料不足という大きな問題を解決するために替えのきかないヒューマンスキルです。
「生活者目線」が農業を強くする
農業における女性の活躍は、単なる労働力の確保ではありません。
生産現場に「生活者(消費者)」としての視点が持ち込まれることで、農業経営そのものが災害や社会の変化に強くなるという事実があります。
消費者のニーズに気づく「商品開発力」
日々、家庭で料理をしたり買い物をしたりする生活者としての経験は、農業において強力な武器になります。
「こんなパッケージなら使いやすい」「このサイズなら無駄がない」といった細やかな気づきが、ヒット商品や新しい販売ルートの開拓に繋がります。
経営の安定感を高める「多角化」
一つの作物を大量に作る効率重視のスタイルに、女性ならではの「多様な視点」を組み合わせることで、経営のリスクを分散できます。
農作物を加工してジャムやソースにする、農家レストランを開くといった「新しい価値」を生み出す活動は、多くの女性たちがリーダーシップを発揮できる可能性を秘めています。
市場の価格変動に左右されにくい直売や加工に取り組むことでも、天候不順や市場の暴落があっても負けない経営体に近づけるでしょう。
世界と日本の違い:女性にとっての農業の壁


国内外を問わず、多くの女性によって農業は支えられていますが、それぞれの悩みや障壁の形は地域によって異なります。一例として、世界と日本では以下のような課題が見て取れます。
| 比較項目 | 世界(開発途上国など) | 日本 |
|---|---|---|
| 直面している壁 | 土地を持てない 学校に行けない 基本的な人権 | 経営に参加できない 家事や育児の負担が重い お手伝いやサポート扱い |
| お金の悩み | 男性の収入を100円とすると、女性は78円 | 農業所得が男性より低い傾向にある 役職に就く機会が少ない |
| デジタルの壁 | そもそもスマホやネット環境がない | スマート農業やデータ活用を学ぶ機会が少なく、高度な機械操作から疎外されやすい。 |
| 目指すゴール | 生きていくための権利と生産性の向上 | 働き方の多様化と経営リーダーとしての自立 |
世界では「生きるための権利」が大きなテーマであるのに対し、日本では「役割の固定化」や「ワークライフバランス」が課題であることが分かります。
農業の現場に居たから分かる。女性農業者のリアルな課題


ボクが農業の現場に居た時、共に働く女性スタッフもいました。その時に見た・感じた実際の課題や改善すべきポイントをまとめたので、それぞれ紹介します。
体力と仕事におけるプレッシャー
農業は、扱う品目によって体への負担がまったく違います。
たとえばキャベツや白菜といった重量野菜。これらは一つひとつが重く、収穫や運搬にかなりの力が必要です。



機械化が進んでいるとはいえ、まだまだ手作業に頼る現場も少なくありません。
1つ10kg以上ある段ボールやコンテナを、一日に何度も運び続ける。ボク自身、手足や腰の痛みにマジで悩まされた時期がありました。そのことからも分かるように、これは女性だけの問題ではなく、一緒に働く男性スタッフにとっても同じように過酷な現実です。
最近では、働く人の負担を減らすために、ラクに作業できる道具や機械への投資を惜しまない法人も増えてきました
これから農業に関わる人にとって「どの品目を選ぶか」はもちろん、「どんな考え方の農家で働くか」が、農業をする上での分岐点になるでしょう。
将来を期待されるからこその「裁量」の差
残念ながら現場では、女性=結婚や出産、子育てで離れてしまうというイメージが多少なりとも残っています。その結果として、将来性を期待される男性スタッフの方が、トラクターなどの大型機械の操作や、責任のある仕事を任されるケースが多いのが現実です。
世の中では多様性が当たり前に語られる時代になりましたが、伝統的な農業の現場でその価値観をすぐに行動へ移すのは、想像以上に難しい。



現場に居たからこそより分かります。
だからこそ、女性が自分の可能性を狭めることなく働けるように、「国際女性農業従事者年」のような活動を元に、根底にある概念から仕組みを変えていく。それがこれからの営農では、避けて通れない道かもしれません。
避けては通れない「トイレ問題」
現場で働く女性にとって、トイレ問題は非常にセンシティブで切実です。最近では移動式トイレを導入する農園も増え、少しずつ改善の兆しが見えています。
しかし、すべての農家がすぐに導入できるわけではありません。



レンタルや購入にかかるコストは、経営にとって決して小さくないからです。
正直に言えば、ボク自身は畑の隅で済ませてしまうこともありましたが、女性にはそうした選択肢はありません。
この問題には、雇う側の農家が「女性が安心して働ける環境」を本気で作ろうとする姿勢が不可欠です。
たとえ高価なトイレを設置するのが難しくても、「いつでも事務所に戻ってトイレに行っていいよ」と当たり前に言える空気を作る。
そんな小さな配慮の積み重ねが、今の現場には求められているでしょう。
経営者の「わかってるつもり」がチャンスを逃している


多くの経営者は、こうした問題を理解しているつもりかもしれません。しかし、実際には表面的な理解にとどまっていることが多いのではないでしょうか。
「うわべだけの問題」として片付けてしまう認識が、実は自分たちが雇える人材の幅や、離職率を高めています。
経営者が能動的に動いて女性が働きやすい場を作ることは、決してボランティアではありません。



働きやすい環境を整えることは、長期的な経営においてプラスとなるアクションです。
まとめ:2026年はみんなで未来の農業を耕す1年間


国際女性農業従事者年は、女性農業者の価値を正当に評価し、彼女たちが抱える社会的な壁を取り払うための、世界中が注目する特別な1年です。
- 経済の活性化:世界規模で150兆円もの経済効果を生み出す可能性
- 食料の安定:4500万人の食料不安を解消し、私たちの食卓の価格を安定させる
- 経営の強化:生活者視点の導入による、災害や市場の変化に強いしなやかな農業の実現
2026年は新しい農業のスタンダードを作るための「はじまりの年」にもなるでしょう。





